チハイという言葉の意味がわからず辞書を引いた私は、何のかの言いつつも幸せなのかもしれない。
それはともかくとして、やっぱりやっていたか裏家業。こんな辺境の、中央から御座なりに扱われている――生活物資が満足に届かない――部隊にしては(食)生活が充実していたので、なんかやっているとは思っていたよ。修理の為の特殊なパーツの作成を、地元の業者に頼む/頼めるのも不自然だし。
もっとも、酒の密造密売というのは意外というか、拍子抜けな感じ。てっきり余剰物資の横流し――必要の無い部品とか燃料とかを捌く代わりに、足りない物を融通してもらう――辺りだと思っていたのだが。前回のクラウスに新酒を渡すくだりまでは、それっぽいエピソードも無かったし。
あと、酒作りにはまったく詳しくないのだが、女の子四人で(外に売れるほどの質と量の)酒を定期的に作るというのはちょっと考えにくい。となると、作っているのは町の方で、連中は隠し場所を提供しているだけなのか。それともあの砦には古代文明の遺産である全自動酒造機械でもあるのか。まあ、ビンがしっかりしている所を見るに、ガラス工房の連中がぐるなのは間違い無さそうだが。
さて今回は、この「密造酒の取り引きに絡む一件」と「休暇中のカナタと修道院(孤児院)の人たちのちょっといい話」、同じ時間にあった(一部がリンクしている)二つの出来事をAパートBパートでそれぞれ描くという、なかなかに凝った作りの一話。構成はしっかりしているし、片方で起きた事がもう一方に影響を与える辺りは面白い。感心する出来だ。
ただ、感動はあまり出来なかった。
やっばり、こういう話は二話に分けてやらないと。確かに内容自体はどちらのエピソードも各パートそれぞれにきっちり収まっている。そう意味では別に二話に分ける必要はない。ただし、それを連続して見る事を考えると別だ。一分やそこらのインターバルでは、前のパートの印象やら感想やらがばっちし残ってしまっている。その状態でいきなり「同じ時刻にあった別の出来事」を見せられても対応できない。本来は、「それぞれが一つの話として独立して存在しつつも、部分的にはリンクし、最終的には一つのラストに収束する」はずなのだが、前半の印象が抜け切っていないので、後半は「Aパートの話の裏」という先入観を抱いて見ざるを得なかった。
吉野弘幸は詰め込むのが上手い脚本家だが、今回はそれが裏目に出たな。確かにきっちり詰め込んでいるのだが、きっちり詰め込まれ過ぎているので、見ている方がついていけない。そうでなくても、Bパートのような話は、心の準備や余韻が必要だと言うのに。
どうもこのアニメの、特に序盤の「出来は悪くないはずなんだが、微妙にしっくり来ない」感は、ここら辺に原因があるようだな。確かに吉野弘幸は、「普通だったら3クール必要な話を2クールでまとめてしまう」優秀な脚本家・シリーズ構成だが、出来上がった物が「詰め込んだ」物になるのはどうしても避けられない。必然、見る方にもそれなりの負荷はかかる。『舞-HiME』や『マクロスF』は元々ハイテンション・ハイテンポが求められる作品なのでそれで問題は無かったが、この『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』は(少なくとも序盤から中盤までは)むしろスローテンポが求められる作品。「詰め込んだ結果として生じたハイテンポ」は、雰囲気作りに関してはマイナス要素だ。
吉野弘幸は現在のアニメ業界で最も旬な脚本家だし、優秀なのも間違いない。しかし、当然のように向き不向きはあろう――スタイルは既に固まってしまっている感もあるし――。そこら辺を考慮せずに仕事をさせてはいないだろうか。脚本家・シリーズ構成に吉野弘幸を選んだのは、一見、この企画を立ち上げた人たちの本気の表れだが、実際にはあまり考えていない/良くわかっていない事の証明なのではないだろうか。始まる前に感じていた不安が、今回の話を見てまた頭をもたげてしまった。