テーブルトークRPGから足を洗って何年が過ぎただろう。再び菊池たけしの作品と出会う事になるとは思わなかったよ。なにせ、テーブルトークRPGの可能性を見せる一方で、限界までも見せてしまった人だからな。この人から得られる物はもうないだろうと見切りをつけていた。アニメ化の話を聞いた時にも「コンテンツ不足、ここに極まれり」としか思わなかった。
しかし、実際に見てみると、これが普通に面白い。無理なく客を引き込む序盤。一話で終わるエピソードを手堅く並べた中盤。そして、どんでん返しから大団円に畳み掛けるように展開した終盤。1クールを無駄なく使い、綺麗に話をまとめている。最初の頃は「思っていたほど悪くない」レベルだったが、段々と面白くなっていき、最後まで見終った時にはかなり満足していた。早いうちからちょくちょく感想を書いとけば良かったと、後悔しているぐらいだ。
世界設定とかはさほど大した物ではない。結構古くからやっている作品だから古臭いのは当然なのだが、その事を差っ引いてもやはり凡庸。洗練された昨今のラノベなどのそれと較べると、かなり野暮ったい。
ただし、安定感はある。「その場の都合で設定が変わる」みたいな乗りはなく、既にある設定の上で話が進展しているのが感じられる。しばしば奇天烈な事が起きたりされたりするが、そこに不自然さがないのは、そこら辺が理由だろう。
継続は力、という事かねえ。元々テーブルトークRPG用の設定だから整合性や普遍性は必要なのだが、それが実際に備わるにはやはり年月というものが必要だ。この世界は、度重なるセッションによって磨かれた物なのだろう。歴史を積み重ねてきた作品だけが持てる「厚み」が、このアニメにはある。それが面白さの理由の一つだろう。
もちろん、歴史を積み重ねていれば、即面白くなるという物ではない。それが悪い方向に働く事も往々にしてある。「既存の客だけが楽しんで、一見さんは置いてけぼり」なんて状況には特に陥りやすい。
その点、このアニメは上手くやった。「より大きな物語の途中にあるエピソードの一つ」という微妙な位置にある話を、きちんと一つの独立した物語として完結させた。このエピソードのヒロインであるエリスの視点で話を進める事で、一見さんには良くわからない事情やら人間関係やらを「わからない事」「わからなくていい事」としたのが、勝利の鍵だな。一見さんがエリスの方向からオーソドックスに話を楽しむ一方で、色々と知っている常連は上からの視点でニヤニヤしながら楽しむ。どの立場にいる人も楽しめるというのはとてもいい事だ。
思い返してみれば、菊池たけしとは、とにかく人を楽しませる事を優先する人だった。そして、原作者がどれくらい絡んでいるのかわからないが、このアニメ版も客を楽しませる事を優先している作品だった。燃える展開の時はきっちり燃える展開。いい話の時はきっちりいい話。そしてバカ話の時はきっちりバカ話。とにかくやる事が徹底してストレートだ。作り手側の見栄や変な拘りなどとは無縁。視聴者としては非常にありがたい。
考えてみれば、プレイヤーが楽しむ様を見て楽しめるようでなければ、ゲームマスターなんて何時までもやっていられない。今でもゲームマスターを続けている菊池たけしは、クリエイターとして大切な物を持っているのかもしれない。
まあ、目の前の人たちを楽しませる事を優先しすぎると、それはそれで良くない結果を招く事があるから、「いいゲームマスター=いいクリエイター」とは必ずしも言えないけどね。とは言え、今回はプラスの方向に働いたようだ。とりあえず、このアニメを見て菊池たけしの事を少し見直したよ。
あとハルフィルムメーカーも見直した。これまで色々と見てきたが、どれもこれも絵は綺麗なんだが、話の方はクリエイターの都合――自己肯定、自己陶酔――で作られているような物ばかりだったからな。いや、本当に見てて抵抗なく楽しめたのはこれが初めてだ。たぶん無理だろうとけど、「この調子でこの先もやってくれ」と思わずにはいられないよ。